7.夢を叶えてくれてありがとう

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「本番まで後十五分です!」  スタッフの大声が楽屋に響き渡る。四人のPegasusのメンバーたちは衣装に着替え、メイクを施す。ヘッドセットを装着し、準備は万端……という訳にはいかなかった。  遥斗は緊張のあまり、膝が笑ってまともに立つこともできなかった。 ――どうしよう……。もう本番まで十分もないよ。そろそろ舞台裏でスタンバイしなきゃいけないのに……。  どうしてもそわそわして落ち着かない。時計の秒針が一秒ずつ進んでいくのを見るだけで、吐きそうな程緊張感が高まる。 「いくぞ!」  イェジュンは時計をチラリと見ると、楽屋を飛び出した。遥斗も慌ててその後を追いかける。  観客席から轟くような歓声が聞こえてくる。既にステージを前にティーザー映像が流れているようだ。幕の向こうには三万人の観衆が今か今かとPegasusのメンバーを待ち構えているのだ。  とうとう始まる。運命のステージが。世界中のK-POPファンたちが注目するPegasusの初舞台が。  そう思うと、遥斗の緊張は最高潮に高まった。  その時、遥斗の手を隣に立つイェジュンが握った。反対の手を今度はヨハンが握る。イェジュンの反対の手はチャンヒョクが握っている。 「俺たちで最高のステージにするぞ。歌おう。俺たちの歌を」  イェジュンが小さな、だが、確かな声を全員にかけた。 ――そうだ。僕とヒョンアと、そして四人の歌を届けるんだ。歌が大好きな気持ちを爆発させるんだ。大丈夫。僕の隣にはヒョンアがいる。  遥斗はイェジュンの方を見やった。彼は口元に微笑を湛え、遥斗に向かって頷く。透き通るような瞳が優しく、だが力強く遥斗の瞳に注がれている。  それまでの緊張がふっと解け、遥斗の心にも火が灯る。 ――かましてやろうじゃん。  遥斗も大きく頷き返した。 「跳ぼう、Pegasus!」 「おー!」  Pegasusのメンバーたちは拳を合わせ、気合を入れる。。  その時、ティーザー映像が終わり、デビュー曲Supreme Wingのイントロが流れ始めた。巨大なスタジアムが揺れるようなどよめきと歓声に包まれる。  さあ、始まりだ。遥斗たちの初ステージが。輝かしい未来へ向けた大きな第一歩が。  四人はスポットライトの照らすステージの真ん中へと一斉に駆け出した。
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