花の都

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花の都

朝起きて、ゆっくりと周りを見回した。 何度か塗り重ねられたペンキの跡が残る窓枠。部屋には明るい光が差し込んでいて、今は何時だろうかとサイドテーブルに置いた携帯電話で時間を確認する。 6時23分。今はサマータイムだから日本では現在14時23分ということらしい。 こちらに着いて3日目、私の身体もようやく時差に慣れてきた。 横で眠る日本人の彼は、日本にいるときよりも起床時間が遅い。私は今日も無理そうだなと彼の寝息を聞きながら、ゆっくりと起き上がった。 ベッドサイドに置いている室内履きのサンダルを履き、キッチンに向かう。 このアパルトマンは築120年以上だとか。外見を初めて見たときに映画の中に来たようで心がときめいたけれど、窓やドアの開閉のたびに建付けの悪さが気になる。床もなんだか凸凹だ。 築100年というのはこういうことか、としみじみ思った。 控えめな大きさの……恐らく2人暮らし以上は想定していないような冷蔵庫を開けると、昨日スーパーで買ったバター160g、トマト2つ、牛乳、卵6個、ハム、紙パックに入ったスープが入っていた。 そういえばパンも買ったんだっけと、私の背くらいの冷蔵庫の上を見ると日本にも店舗があるブーランジェリーのバゲットが紙袋に入って鎮座している。 食材は思った以上に値段が高く、朝食1~2食分をイメージして買った分が日本円で3000円以上になった。とはいえ、ハムは30枚入り、牛乳は2リットルくらいの大きさだし、バターは日本で軽く2000円はしそうなものが日本円にして600円くらいで手に入る。さすが農業国らしく、乳製品は日本より割安かもしれない。 私が気になったのは、ここで腰を据えて生活しようと思ったらどれだけお金がかかるんだろうか、ということだろうか。 それにしても、まさかパリに来て日本と同じパン屋さんを利用するなんて。 拍子抜けしたのと同時に、日本にはパリのパン屋さんが当たり前に存在していたのだと感心もした。
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