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しとしと降る雨を窓越しに見ながら、深雪ちゃんは何度か溜息をついている。彼女の荷物はすっかりなくなり、今夜は私のベッドで一緒に眠ることにしている。二人で長い時を過ごしたリビングとキッチンは、何も変わらないけれどリビングの北側にある深雪ちゃんの部屋には、もう何もない。
「明日、彼の荷物くるの?」
「明後日」
ワイングラスの淵を指でなぞりながら深雪ちゃんの質問に答えた。
「式はしないの?」
「うん、深雪ちゃん来れないし」
「ごめんね、出発早くなって」
「深雪ちゃんのせいじゃないよ」
美容師の深雪ちゃんのパートナーは同じ美容師で、ニュージーランドで働いている。明日の飛行機で深雪ちゃんも行く。
「ごめんね、本当は一緒に行きたかったよね」
「いやいや、先に行って様子見てくれてたから。それに真帆のことちゃんと一樹くんにバトンタッチして行けるの嬉しいし」
深雪ちゃんは首をすくめてから、「心配性は血筋かな」と呟いた。
父の歳の離れた妹、叔母の深雪ちゃんは、父が亡くなってからずっとここに住みながら私の側にいてくれた人だ。小学二年生のときに事故で母を亡くし、中学二年で父を病で亡くした私を、その後ずっと支えてくれてきた。
深雪ちゃんがいてくれたから、父を亡くした淋しさを耐え、乗り越えることができた……というわけでもない。
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