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 テーブルの上に広げられた燻んだ便箋の文字を見つめて、私たちは言葉も出なかった。私だけではない、一樹も目を見開いている。  それは当たり前の言葉なのかもしれない。でも、あんな過去がある私と父の関係からは想像もできない一言が、白い便箋に線を無視した大きな字で書いてある。文字の大きさはばらばらで、決して綺麗な文字とは言えない。まるで子どもの殴り書きのようだった。  どのくらいその紙を見ていただろう。最初に口を開いたのは一樹だった。 「なあ、真帆、梅の木から落ちたことあったよな?」  いきなり一樹が発した言葉に、私はまた戸惑う。 「うん、五年生のとき」  なんでもない、足を滑らせただけだ。近くにいた父は間に合わず、落ちたあと救急車を呼んだ。一年生のときは同じような状況で父に受け止めてもらったと思う。  私のそっけない返事を聞いて、一樹はまた黙ってしまった。でも視線はずっと父の書いた文字を見ている。そして少し時間を置いて一樹がまたゆっくりと口を開いた。 「俺、思い出したことがあるんだ。真帆と付き合い出したのは、君が高校生になってからだったよな。でも実はあの一緒にフェスに行った頃から、俺は真帆のこと好きだったんだ」  そんなことは知らなかった。私は教育実習の先生のときから一樹のことをずっと好きだったけれど、一樹が中学の頃の私の相談に乗ってくれていたのは、あくまでもとしてだと思っていた。 「だから付き合う前だったけど、俺、真帆のお父さんの病院に行ったんだ、呼び出されて」  呼びだされて?
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