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「なにを頼まれたの?」
一樹の言うことがすべて謎めいている気持ちになりながら聞いた。
「……あの日、真帆のお父さんに。俺が散々悪態ついて病人を責めてるあいだ、お父さんは何も言わなかった。でも俺が言いたいこと言ってちょっと冷静になったとき、お父さん言ったんだ『真帆を頼む』って。そのあとは背中向けてそれっきり何も言わなかったし、俺の方を見てもくれなかったけどな」
『真帆を頼む』? なにそれ。自分は散々傷つけておいて。
「あのな、とりあえず聞いてくれる? 俺の仮説」
もういない父に対して、少しむかつきながら一樹に頷いてみせた。
一樹はひとつ息を吐いてから、私の方を見てテーブルに腕を置いた。
「頼んだ俺が必ず実行するってわからないじゃない、お父さんにはさ。もし深雪ちゃんにも頼んでいたとしても、未来に確証なんて持てないだろ、お父さんには。梅の木から落ちた真帆を助けられなかったときから、お父さんの身体になんらかの変化があったとしたら」
そこまで言って一樹はテーブルの上で自分の手を握りしめてから、また口を開いた。
「もし、深雪ちゃんや俺がいるってラッキーがなくなったとしたら……。もしお父さんが真帆が小学生の頃の優しいお父さんのままだったら……お母さんが亡くなったときみたいな喪失感を真帆が感じてしまったとしたら、それは誰が受け止める? 真帆がもしそのとき一人だったとしたら」
一樹はそこまで言うとまるで言い訳みたいに、「お父さんの視点だからな」と言った。
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