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「違う、そうじゃないよ、ハカセ、私はこの子と共に生きて、そして死にたい。歩みを共にしたいんだ。もう、死を通り抜けることはしたくない」
「……猫の寿命は長くても18年くらいだと言われている」
「知ってる、わかってるよ、ハカセ。だからもう私は再生しない。ハカセだってわかってるでしょ、私にはもう、自力での再生は難しいんだってこと。ゼノの助けがなくちゃ、たぶん時間をかけたとしても完全には再生できないと思う。だからこの子と一緒に生きるのが、私の最後の人生だよ」
ハカセは黙った。何かを考え込んでいる。
「ハカセ、今までありがとう。私はハカセと出会ってはじめて孤独から解放された。でも同時に、なぜ生きているのかわからなくなってしまった。永遠に続いていくだろう時を、どう過ごすのか。私は、自分だけがただ生きながらえることが苦痛なんだ、そこに意味がなくちゃ、誰かのためになる、誰かの救いになるような意味が」
「それが、この子猫だっていうのか?」
「そう。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。私自身が救われたいだけかもしれない。でも、私は今、この子のために生きたいんだ」
ハカセは黙ったまま瞬きをした。それから、美織の手のひらの上の子猫を指先で触った。
「名前はつけたのか?」
「ミィ。ミィにする」
「そうか。美織、ミィ、どうか元気で。離れていても、僕らの心は共にある」
「ありがとう、ハカセ」
美織は涙のにじむ目を細め、ハカセに笑顔を向けた。
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