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◇
美織はゆっくりと目を開けた。
最初に見えたのは白い天井。それから、窓から入り込む風に乗る花の香り。
ここは……?ハカセの屋敷?
美織はベッドから勢いよく体を起こした。腕につながれていた機材が床に落ち、大きな音を立てて転がった。
部屋のドアが開き、高校生くらいの少年が顔を出す。ふわりとしたくせ毛がやわらかく揺れた。
「美織、起きたのか」
少年がベッドへ近づいてくる。
「ハカセ、どうして、どうして約束を守ってくれなかったの?私はもう再生しないと言ったのに」
ハカセは目を伏せ、近くにあったスツールに腰掛けた。そして口を開く。
「美織、君はあの日、ミィと共にこの屋敷を出た。そしてすぐそこの大通りで、交通事故に巻き込まれた。ミィは奇跡的に無事だったけど、君は致命傷を負った。通常ならば即死だ」
ハカセは手元を見つめたまま、静かに語る。
「僕は、君との約束を守るつもりだった。でも、ゼノは君を再生させることを選んだ。君がミィと交わした約束を果たせるようにと」
「ミィ、ミィはどこに?」
ハカセは部屋の隅を見た。そこには色あせた毛布が畳んでおいてあった。まるでついさっきまで誰かがそこに座っていたかのように、毛布の真ん中がへこんでいる。
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