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「わかった。ごめんなさい、ハカセ」
美織はこの場にいないゼノにも、心のなかで謝罪した。
ハカセは機材を触りながら顔を曇らせる。
「美織、君はどうしてまたこんなにも自ら肉体を傷つけるような真似をしたんだ?まさかとは思うけど、僕の研究に寄与するためとか?」
核心を突くハカセの言葉に、美織は少しだけ戸惑いを見せた。なぜと問われて、あらためてその理由を考える。
「それは……はいでも、いいえでもないかな。ハカセの研究の一助にって思いはもちろんあるけど、試してみたかったのが一番かも。自分はやっぱり再生するのか、もしかしたら今度こそ死んじゃうんじゃないかって」
するとハカセは小さくため息をついた。
「再生ならこの数百年の間に僕らは何度も経験しているだろう?記憶にないだけで、もしかしたら数億年にものぼるかもしれない。僕らはどんなに肉体を破壊されても再生し続ける能力をもっていて、その力はすでに証明されている。解明については、研究の段階だけど」
「その研究を、ハカセは自分の身をもって追求しているわけだよね。私も少しは力になれているのかな?」
「もちろんだよ。個体差があってこそ、研究は大きく飛躍するというものだ」
ハカセはモニターに目を向けたまま力強くそう言った。しかし美織の心には、空虚な思いがあふれ出した。その気持ちは、ずっと長らくぬぐえないものになっていた。どんなに肉体が新しく再生されても、心には古い記憶が折り重なって積もっていくばかりだ。
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