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「だけど美織、肉体を粗末にする行為は今後は慎んでくれ。それがたとえ研究のためだとしても、僕はそれを望んでいない。僕には君が必要なんだ。永遠に再生し続けるということは、途方もない孤独と共にあることを、君もよく知っているだろう。まさに君は僕のドッペルゲンガーなんだよ。姿形は違えど、もしかしたらもとはひとつだったのかもしれないとさえ思えてくるほどに」
「姿形が違ったらドッペルゲンガーとは言えないんじゃない?」
美織は苦笑する。
「そう言うな。僕らの関係を表現するのにこれほどピッタリな言葉は他にない。あの飛行機事故の際、君を見つけて僕がどれほど嬉しかったか」
飛行機事故、と聞いて、美織は思わず耳を塞いだ。
「やめてハカセ、思い出したくない」
拒絶する心とは裏腹に、すぐに蘇ったのは嗅覚の記憶だ。漏れ出したオイルの匂い、それから草木が燃える煙にまじる、肉の焦げるような匂い。
美織は口元を手で覆った。目を閉じても、脳裏に焼き付いて離れない、凄惨な墜落事故の光景。
わずかに聞こえていたうめき声がすべて消え、耳には炎がはぜる音だけが聞こえていた。美織は意識を保ったまま、潰れた己の肉体が再生していくのをじっと待った。満天の星空に、無数の煙がのぼっては溶けて消えていった。
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