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このときほど、自分の無力さを痛感したことはなかった。多くの命が瞬時に失われたにもかかわらず、自分は生きている。しかし無力だ。己を再生する以外の力を持たない。
時間にすると数時間程度だっただろうか。美織は完全に再生した体を起こした。そして、同じように体を起こした青年とふと目が合った。数秒黙ったまま見つめ合ったのち、彼は叫んだのだ。ドッペルゲンガー!と。
それが、美織とハカセとの出会いだ。はじめて彼らは、自分と同じ能力を持つ者と出会った。
それから、ふたりは生存者のいない事故現場をひっそりと離れた。美織はハカセの強い願いもあって、今もこの屋敷で暮らしている。
塞ぎ込む美織の様子を見て、ハカセは優しい声音で言った。
「美織、いつまでも気に病むことはない。仕方のないことだ。僕らの能力は、己の肉体を再生するにすぎない。それは他人を蘇らせる力ではないんだ。どんな力も万能ではない。できることとできないことがある」
ハカセはコンピューターをスリープさせ、再び美織に向き直った。小さな人差し指で美織の眉間をこする。
「美織は同調意識が強すぎる。そこは僕とは正反対だ。不完全なドッペルゲンガーくん」
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