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「ハカセが達観しすぎてるんだと思うよ」
そっぽを向いてしまった美織に、ハカセは諦めたように笑う。
「伊達に長生きしてるわけじゃないさ。そうだ、美織も少し肉体を若返らせてみるか?気分転換になるし、この姿もなかなか快適だぞ。体は軽いし、思考も軽快だ」
出会ったときは20代後半くらいの青年だったハカセは、自身の研究の成果を試すように肉体を何度かカスタムしている。今は7歳くらいの子どもの姿をいたく気に入っている様子だ。
「私はいいよ。だってハカセみたいにずっと家にこもってるわけじゃないから、急に姿が変わったらこれまで築いた人間関係が破綻しちゃう」
「ま、それもそうだな」
人間関係と言っても、買い物や散歩中に顔を合わせる人たちくらいだけど。
美織は心のなかでつぶやいた。それを知っているかどうかはわからないが、ハカセは美織の人間関係には全く興味がなさそうだ。手際よく枕元の機材を片付け始めている。ハカセの人間関係と言えば、美織とゼノくらいだろう。
美織は、小さな体で機材に布製のカバーを掛けているハカセの背中に言った。
「私は、ハカセがうらやましい」ハカセは聞こえたかどうか、黙っている。美織は構わず続けた。
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