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「だって、ハカセの研究は人類の役に立つかもしれないでしょ。若返りにしてもそう、肉体の再生が誰にでも可能になれば、悲しい思いをする人も減るんじゃないかな。ハカセの力は、みんなのためになる力だよ。私にはできない」
ハカセの手が止まった。振り返って、小さく首を振る。
「美織、この話は幾度となくしていると思うけど、僕の研究は決して他者のためのものではない。僕の行動原理は、己を知りたいという欲求ただひとつだ。僕は自分の能力の深淵を知りたい、ただそれだけなんだ」
ハカセはいつになく真剣な面持ちで美織を見た。美織もまた、ハカセに真剣に向き合う。
「それでもやっぱり、私はハカセがうらやましい。だってハカセには生き続ける意味があるんだから」
ハカセが小さく息をつくのが聞こえた。
「君はいつだって、僕らの能力の壮大な使い道を考えているようだけど、そんなものはない、それが長らく生きて僕が出した答えだ。生きるのはあくまでも自分のため、それが真理だと僕は思う。君は生きる意味を他者に準拠しすぎている」
「そうなのかな」
美織は不服そうにつぶやく。
「そうだとも。美織、自分の心のなかにだけ問いかけるのはやめろ。己だけで会話を続けても答えは出ない」
「それじゃハカセ、ずっと聞いてみたいことがあったんだけど」
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