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 ゴオオオオオオオ…………  遙か遠い上空を、白い矢印が飛んでいく。  また数キロ先の巣からヤツは飛び立ち、東に向けてそのとんでもなく重い巨体を空中に浮かばせているのだ。  なんという、身の程知らずなヤツだ。  あいつは、自分が飛べることを当然だと思っている。  本当はあいつは鳥でも蝶でもないのに、自分もそれと同類のように迷いなく思って翼を広げているのだ。  あいつの強引な、空を裂く轟音を聴く度、俺は耳を両手で塞ぎ、蹲ってその言い知れぬ恐怖に耐える。  あいつが落ちてきたら。  ちょっとしたエンジンの不具合とか、翼の不調とか、テロリストによるハイジャックとか、その他数多の理由でもし、あいつが飛ぶことに不安を感じたら。  あいつは急に、自分が鉄の塊であることを思い出して、魔法が解けてしまったかのようにその飛び方を忘れてしまうだろう。  あいつが落ちてきたら。  ゴオオオオオオ…………  水面が微かにさざめき立ち、その押し付けてくるような轟音に鳥肌を立てる。  高い高い上空にいるはずなのに、どこまで傲慢なんだ。あいつは。  どれだけ自己主張すれば気が済むんだ。  どれだけ自分の存在を厚かましくアピールすれば気が済むんだ。  怒りで手が震え、耳の近くの皮膚に爪の先が僅かに食い込む。  早く行け!行け!行け!
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