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「そこはな、花生。危険だから金網で囲ってあるんだぞ。先生たちはまだ気づいてないけど、俺が言えば間違いなく叱責を受けることなんだ。今日もうこれきりで止めるって言うんなら言ったりしないから、早くそこから出てこいよ。そしてもうそこで休んだりすんな」 「うるっせえな」  金網で線を仕切ったこちら側は椿や百日紅などの照葉樹の木立が並んで、水槽の周りを緩く隠している。昼休みサッカーをしている奴らからの目隠しにもなり、その柔らかな木陰が気に入って、最近では俺の一番のお気に入りの休養所になっていた。こいつが発見して、網越しにピーピー言い出すまでは。 「花生」 「あー、もう」  昼休み終了のチャイムが鳴り、渋々俺は腰を上げて金網をよじ登った。ふわりと身体を浮かせて上に巻かれた有刺鉄線を越え、そのまま二メートル下のグラウンドの砂地に着地する。 「言うなよ、てめえ」  俺は充の肩をぐっと引き寄せて威嚇した後、突き放して校舎の方へと駆け出した。 「あ、待てよ。花生、花生っ」  視線を前方に向けると、自然と視界上部の青空が目に入る。その突き抜けるような清々しい深みの端にぼやけた白線を見つけて、俺はまた重い溜め息を吐いた。
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