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 脳がぶっ飛びそうな程の高温だった。  気づいた時、俺はひしゃげた天井と椅子の間に挟まれて身動きが取れなくなっていた。必死で母を呼んだけれど、隣にいたはずのその姿は鉄に潰されて消え失せ、ただその返事のように夥しい血だまりが足元に広がっていた。その奥に座っていた父の返事も、もちろん無かった。  俺はその時飛行機の中間近い席に家族三人で座っていた。  夏休みに母方の実家のある東北に遊びに行って、たくさんのお土産を持って帰る途上だった。当時小学二年生だった俺は初めての飛行機で舞い上がり、興奮して終始お喋りだったことを覚えている。    離陸の時に感じる強烈なGの後、フッと軽く、身体を戻される時の何とも言えない、縛られていた縄が瞬時に消えたかのような解放感。そして窓下に広がるパノラマの風景。街は見る見るうちに小さくなり茶色の塊となって、山や畑は緑や黄色といった単純色にまとめ上げられていく。点は集合体の中の点となり、個は全体の中に沈んだ。    行きであまりに騒いだ俺は父の命令で帰りでは内側の席へと席替えを余儀なくされた。遊び疲れた後ですぐ眠ってしまったのもあって、途中のことはあまり覚えていない。    そしてその座席の変更が、生死の分かれ目となったのだった。  鼓膜が破れそうな程の爆音と衝撃で目覚めて、俺はパニックに陥った。
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