俺の、奥さん

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「まあ最近物騒だし、生贄が逃げて行方を追ってるとか、鉄砲水が起きたとか何とか。このあたりは生贄を捧げてても昔から天変地異が多かったし、国がいよいよまずくなったら隣国で商売するか……って俺のぐちになっちまったが、要は結婚はできるうちにしとくもんだ。おめでとさん」  気持ちのよい笑顔を見せられて言葉を失っていたら、キトエに肩を叩かれた。 「そろそろ」 「だんな、お嬢ちゃんを幸せにしろよ」 「言われなくても」  キトエに腰を抱き寄せられて、変な声が出そうになってしまった。見上げるとキトエは何だか不服な様子で、リコは腰を抱かれた腕に引っ張られるように店の出口へ連れていかれる。 「あの、ありがとうございました」  振り返ってかろうじて言葉を投げると、男性は歯を見せて手を上げた。  店を出て、石壁の建物が連なる脇道を少し歩く。腰は抱かれたままだ。 「キ、キトエ……手」  いくら大通りより人の往来がまばらとはいえ、人前でこんなに密着しているのはよくない。  キトエは立ち止まって、不機嫌な顔のままさらに強く腰を抱いてきた。リコはあげそうになった声をかみ殺す。
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