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『おとなしく死んでくれればみんな幸せになれたのに』
キトエの声が、怒っている。目の前の若い男性にリコがじろじろ見られていたということだろうか? リコ自身は真剣に干し肉を吟味していたのでまったく気付かなかったのだが。
「ああ、すまなかったな」
キトエの背から男性をうかがうと、からかうように薄く笑っていた。謝ったわりに、今度はキトエから目を離さない。
「ずいぶん珍しい目をしてんじゃないのかと思って」
リコの心臓が強く鳴った。リコの瞳は深い青に、紫、緑が混ざっていて、角度によって色が変わる。頭に巻いた布で目元が陰になるようにしていたが、完全には隠せない。
「このあたりでは珍しくもないだろう」
キトエが不機嫌そうに応じる。キトエの瞳も珍しい色をしているが、堂々としていなければ逃亡者なのだと、生贄とその騎士なのだと、余計に怪しまれてしまう。先ほど薄桃色の髪の女性とすれ違ったから、このあたりではきっとリコの髪の色も瞳も本当に珍しくはないのだ。そう思って、聞こえないように息を深く吐き出す。
「ううん、まあそう言われてみりゃそうか」
男性は薄く笑いながらも意外とあっさり引き下がった。
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