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目が覚めなかったら?
浄化の魔法をかけられるだけかけた。効いたのか、否か。キトエをのぞきこむ。
瞳が、閉じられている。戸惑い、可能性が一瞬で走って、あんなに熱かった体から熱が引く。
「キ、トエ、待って、起きて、うそでしょ……やだ」
自分の声の小ささに、指先が震えた。
瞳に、黄色の光の欠片が差しこんで、虚ろにひらく。
「ごめん、ちょっと、目閉じてただけ」
どこかにいっていた熱が、どこからかゆっくり戻ってくる。そのまま、あふれるように瞳から涙がこぼれていた。キトエの表情がにわかに変わる。
「ごめん、違う、驚かせようとかいたずらとかそういうのじゃなく本当にぼんやりしてただけで」
リコも怒っているわけではなく、ただ涙があふれてきて、何の感情なのかよく分からなかった。しゃくり上げもせず涙を流していたら、キトエが本当に狼狽して涙を拭ってくれる。
「ごめん、本当にごめん」
キトエが悪いわけではなくて、多分今日一日でいろいろなことが起こりすぎて、振りきれた感情が決壊したのだろうと思う。ジヴィードの言葉、命の天秤、キトエの命、そして、体を重ねた幸福。
「ううん。よかった。キトエ、好き」
涙がこぼれ落ちるのと同じように言葉がこぼれていた。キトエまで泣きそうな顔をする。
「うん。好きだよ。大好きだ。愛してる」
顔を近付けられたからキスをされるのかと思ったら、頬に止まっていた涙の粒を舐められた。
「綺麗じゃないよ」
「リコのなんだから綺麗だ」
キトエはたまに妄信的なのだった、と気恥ずかしくなる。
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