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「その……昏睡は、どう? 浄化された感覚はある?」
「落ちるような感覚はだいぶなくなったと思う。ただ、完全に解けたかは正直分からない。薄まったぶん、普通の眠気と区別がつかない」
盲点だった。キトエもいつかは眠らなければいけない。けれど、眠ったらもう目覚めないかもしれないのだ。それは起きる瞬間まで分からないのだ。
息がつまる。絶対にキトエを失いたくない。まだやれることはある。
「その……ふざけてるわけじゃなくて、嫌かもしれないけど……もう一回、してほしい、の」
言いきる前に視線を下げてしまった。
「違うの変な意味じゃなくて! 一回でだいぶ薄まったなら次で治るかもしれない。可能性は全部試しておきたいの……後悔したくない」
片頬を包まれて、身構える。間近でのぞきこまれる。
「さっきも言ったけど、嫌なわけない。逆に俺をそんなに甘やかさないでほしい。だってリコに触りたいし声が聴きたいんだから、ごほうびだ」
おかしそうに微笑まれる。
「ばか」
ほんの少し先の未来でさえ、分からない。泣きそうになるのをこらえて、笑顔を作った。
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