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「ずっと、わたしなりに考えてた。大勢の人を見殺しにするのか、自分の命を差し出すのか」
キトエの顔が険を帯びる。キトエは怒ってくれるのだと、緩く微笑んでしまう。
「分かってる。そんな顔しないで。わたしは、恨まれても、死ねって言われても、わたしのせいで国が滅んだとしても、死にたく、ない。この重荷に耐えられないかもしれない。でも、耐えられない罪を背負ったとしても、生きて、いたい。死にたくない」
普通なら願うこともない、当たり前に叶う、願い。リコは望んではいけない願い。それでも、願う。望む。
「わたしだって、生きたい」
抑えたはずの涙で、声が震えた。こらえられなくて、涙が頬に伝って、あふれてきそうになる声を押し潰した。
キトエは自分がつらそうに眉根を寄せていた。空を仰いで、口をあけた。
それは、月の光を口に含むように。キスが、降ってくる。
「金と銀を」
離れた唇で、言われた。頭がついていかない。
『金の月と銀の星をあなたにあげる』ということだ。月の光を口に含んで、口付けてからそう言うのだ。本当は満月の夜に行う。月が割れる夜は生贄を捧げる日だから、決して行わない。
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