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俺の、奥さん
キトエが泣きそうに、とても温かく、微笑んだ。
「はい。リコ。俺の主。俺の、奥さん」
いっぱいになった涙で、キトエの瞳の青や橙や緑が大きく混ざり合って、虹が見えた。
(虹をあげるのはわたしじゃなくて、キトエのほうだ)
言っても不思議な顔をされるだろうから、もう少しあとに取っておこうと思った。抱きしめてくれたキトエの背を、思いきり抱きしめ返した。
太陽のもと、国境を目前にした街では、桃色や水色の髪の人々と当たり前のようにすれ違う。
リコはキトエとともに大通りから少し脇道にそれた店へ入った。壁一面の木製の棚には、金銀の食器や宝飾品が並んでいる。外の熱と音から切り離されたような空間で、リコは鮮やかな草花模様の敷物を踏みしめて、男性が座るカウンターへ歩む。
「買い取っていただきたいんですが」
何重にも折りたたんで真ん中を紐でしばった、薄桃色の髪をカウンターに置いた。頭から垂らした布で見えづらくはなっているが、腰まであったのをまとめて上げていたリコの髪は、今肩につかないほどだった。
頭に布を巻いたひげの中年男性は慣れた手つきで髪の束を持ち上げる。
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