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「はいよ。長くて綺麗な色だが、ここらじゃ珍しくないからなあ。もっと国境から離れたところで売れば高く売れたのに。あんた方、地元のもんじゃなさそうだし」
怪しまれたのかと思ったが、男性はリコのほうを見ずに髪を上皿天秤に乗せていたので、ただの雑談のようだ。
「ええと、その……夫が、切るのをなかなか許してくれなくて。旅芸人なので短いほうが楽なんですが」
振り返ると、一歩斜め後ろにいたキトエは目を丸くしていた。固まっている。心なしか頬が染まっていっている。
「お嬢ちゃん、はい、お金」
男性に硬貨をざらざらと握らされて、慌てて振り向く。
「ああああの、夫はわたしの護衛で! 夫にはなったばかりで! だから今まで売る機会を逃してしまって!」
「おうおうのろけかい。若いっていいねえ」
キトエが動揺しているのを見たのにつられて、リコも訳が分からない余計なことを口走ってしまった。幸いにも男性はただののろけと思って笑ってくれている。
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