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じろじろ見ないでもらいたい
とてもいい匂いがする。道の両端に並んだ屋台のどこかで、鳥を焼いているようだ。長らく歩いてきて空腹の身には酷な香りだった。
はしゃいではいけないと分かっているのに、リコは振り返って、後ろ向きに歩きながら微笑みかける。護衛の騎士で、恋人でもあるキトエに。橙に桃色が混ざった濃い夕焼けが、行きかう人々とキトエの長い生成の上衣を包みこんでいる。
キトエが駆け寄ってきて、リコの腕を引いた。急に香りが分かる距離まで近付かれて体が固まったが、何のことはなく、後ろから来た人にぶつからないように引っ張ってくれただけのようだった。
「あ、ありがとう。ごめんなさい」
「楽しい?」
キトエが仕方なさそうに微笑む。リコは正直に頷いた。
主に食料や、そのときどきどうしても必要なものを補充するときしか街には立ち入らないのだ。街を歩くのは今を入れてもまだ三回目だった。逃げているのだから、はしゃいで目立ってしまってはいけないのは分かっているのだが、今まで社交以外で外に出させてもらえなかったのと、キトエと一緒に、普通の女性として買い物ができるというので、楽しさが抑えきれない。
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