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女性の前まで来た風間係長は、抱えていた子どもを地面に下ろした。それから、手にしていた花束を両手に持ち直し、片膝をつき、女性に向かって大袈裟な仕草で差し出した。
まるで、往年のプロポーズのお手本のような体勢で。
背景は、ロマンチックでもなんでもない、金曜日の夜の、どこにでもある雑多な中規模のターミナル駅で、一人だったりカップルだったりグループだったり、皆それぞれのことで忙しそうに行き交っている。誰も彼らの様子を特に気に留める様子はない。
ただひとり、光希だけがその光景にハッと息を呑み、烈しく打ちのめされていた。
瞬きひとつで見逃してしまいそうな、それは、ほんの一瞬のできごとだった。
けれど、愛しい嬉しい悲しい、時には腹立たしい瞬間をも、気が遠くなるくらいに積み重ね、二人が、家族が築き上げてきたものが、そのワンシーンに凝縮されていた気がした。
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