三月は去ってしまう

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光希がこれまで付き合ってきた、光希の表面的な部分ばかりを褒め称え、どうにかして身体の関係を結ぼうとしてくる男たちとは、決して築けなかったものだった。 「いつも、支えてくれてありがとう」 「長い間お疲れさま。こちらこそ、ありがとう」 声は少しも聞こえない。それなのに、寄り添う二人の会話が今、光希にははっきりと聞こえた気がした。 どうして? と問われても、きっと一言には語り尽くせない、深い愛情がそこにはあった。光希が割入る隙など少しも無かった。 不意に子どもが空を指差した。風間係長が首を捻ってそちらを見上げる。星なのか、飛行機なのか、小さな指が示す先にある何かを探す風間係長の表情はひどく無防備で、少年のようだった。光希の知らない彼だった。 自分が知っているのは、彼のほんの一部分でしかないことを思い知るのと同時に、本当はもっと、もっと彼のことを知りたいと欲している自分の本心に突き当たる。 終止符を打つためなんて、嘘。
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