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「もしかして……一夜の過ちってやつでしょうか」
「「……」」
数秒、間があって男性は深い深いため息をついた。
「そんなわけあるか。払えよ、クリーニング代」
「え?」
「あんた、俺のスーツにゲ○吐いたんだよ、ゲ○。昨日は明らかに飲み過ぎてて、吐いて寝落ちしたからバーの下のホテルにそのまま一泊した」
「!?」
ゲ、ゲ○……。最悪じゃないか。
財布、財布!私は慌ててバッグの中に手を突っ込む。スーツのクリーニング代っていくらだったっけ?
会社を辞めてからクリーニングなんてほとんど利用してないけど三千円あれば足りるよね。
私があたふたしてるのを横目に男性は真っ白なシャツに腕を通す。
その仕草に妙にドキっとしてしまうが、そんな事考えてる場合じゃない。私は頭を下げる。
「本っっ当に申し訳ございませんでした」
そして差し出す三千円。しかしその三千円は中々受け取ってもらえず恐る恐る顔を上げた。
「?」
「ごめん、冗談」
「冗談?」
「スーツはホテルのクリーニングに出したから気にしなくて良い」
「でも、料金……」
「良いよ。7年前死にそうな顔してた奴が今は元気に働いてるって分かっただけで十分」
「……」
その言葉がジーンと胸に響く。
い、いい人。そもそもあの日、傘を差し出してくれた人が悪い人なわけないんだ。
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