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「じゃあ、俺はもう行くから」
「あ、」
7年前と同じ展開だ。
名前を聞かれる事もなく、彼は行ってしまう。
「また、改めて会えたりしないですか?お礼したいです」
迷惑かけまくりだからな、食事くらいご馳走したい。
「会えないし、お礼もいらない」
「!」
「俺、忙しいので」
「……」
そうだよね……見るからに仕事出来そうだし。
きっと良い会社に勤めてるんだろうな。
こっちに戻って来ているのは転勤か出張?
最後にお礼だけはきちんと言おう。
「7年前、私は貴方の優しさに救われました。本当にありがとうございます。あの傘は今でも大事に持ってます」
「……そう」
「はい」
「もう雨に濡れる事はない?」
「ないです。傘、持ってますから」
「「……」」
彼はそれ以上何も言わずに背を向けて部屋を出て行った。私はボフ!とベッドに寝転がる。
「……名前くらい、聞けば良かった」
きっともう、会う事はないんだろうな。
少しだけ寂しさを感じるが現実なんてこんなもんだ。
私は両頬をペチ、と叩き起き上がる。
まだ早い時間だし着替えて家に帰ろう。
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