遠野事変

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「えっと……はい。行った事あります。でも、お店がお休みで」 先月の話とはいえ私の顔を覚えてるなんて凄すぎる。 「やっぱり、そうでしたか。遠方からわざわざ来てくれた方ですよね?」 「はい。よく覚えてますね。頂いたお菓子とても美味しかったです」 ここで嘘をついたら変だ。まさか貴方の様子を見にお兄さんと行ったんです、とは言えないけれど。 「記憶力は良い方なので。そう言ってもらえて嬉しいです」 「……」 やっぱり可愛いなぁ。照れた顔もよく似てる。 「でも、こんな偶然あるんですね」 なんてね。 「そうですね、世の中案外狭いですから。今日はお忙しい所、わざわざありがとうございます」 秋桜君は深く頭を下げる。 兄より謙虚で良い子かもしれない……。 「いえいえ、私から言い出した事なので」 「?そうなんですか」 「えーと、遠野からよく話を聞いていましたので」 ヤバイヤバイ、すぐボロが出そうになる。 普通、一介の部下が上司の弟の迎えに行くって立候補しないよね。 「……兄が?」 秋桜君の表情が一気に暗いものになる。 「兄は俺の事なんて眼中にない人です」 「え?」
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