遠野事変

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とはいえ。 流石にアポなしでトオノのような大企業に行っても門前払いをくらうよね。 ここは。 「……貴方達は一体、何をしているのでしょうか」 トオノの本社ビル前、目の前には呆れた様子の村瀬さん。先程【村瀬さん、今から秋桜君を連れて本社に行くので助けて下さい】とLINEしたらとりあえず来てくれたのだ。 「雪臣君、久し振り。里津さんは俺の我儘に付き合ってくれただけ」 秋桜君が私を庇うように前へ出た。 「本当に、久し振りですね。トオノで秋桜に会う事は二度とないと思っていました。どの面下げて帰って来たんです?」 「村瀬さん、そんな悪役みたいな事言わなくても……どの面下げてなんて言う人に初めて遭遇しました」 「佐伯さん、貴方は本当に黙っててもらえます?そもそも何故楓に直接連絡しなかったんですか?」 「村瀬さんなら助けてくれると思いまして」 楓に連絡しても大人しく実家に送ってと言われるだけだ。 「私が?」 「はい」 「「……」」 村瀬さんは深いため息をつく。 「付いて来て下さい」 「「!」」 私と秋桜君は顔を見合わせた。 「……里津さんて兄と付き合ってるんですよね?」 「うん。私の勘違いでなければ」 「折れる雪臣君なんて初めて見ましたよ」 「え、そうなの?」 一緒にカフェでお茶した仲だしな。 「佐伯さん」 村瀬さんが急に立ち止まる。 「はい」 「これは貴方に貸し一つですからね。お忘れなきよう」 「……はい」 綺麗な笑顔がとてもとても怖かった。
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