遠野事変

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当たり前だがトオノの本社ビルの中に入るのは初めて。とにかく広くて綺麗で受付のお姉さんが凄い美人。マスコットキャラクターである猫のトオノちゃんのオブジェまである……。 「やっぱり、大企業は凄いね」 隣の秋桜君にこそっと話しかける。 「まあ、そうですね」 「この床も大理石?高そうだし、オシャレだな」 そこかしこに緑もあって良い。 「佐伯さん」 何故か村瀬さんが立ち止まる。 「はい?」 「もう少し緊張感を持って下さい。遠足ではないのですよ」 「いや、めちゃくちゃ緊張してます」 心臓はバクバクしてる。 「本当に?」 「物凄く」 「「……」」 村瀬さんはまたため息をついて、私達を会議室のような部屋に案内してくれた。 「少々お待ち下さい。すぐに楓が来ますので」 「あの、雪臣君」 部屋から出て行こうとする村瀬さんを秋桜君が呼び止める。 「何です?」 「あの、追い返さないでくれて……ありがとう」 「いえ。これは佐伯さんに対する貸しにしましたので」 後から何を要求されるのだろうか……。 「それでも、ありがとう」 「秋桜」 「?」 「私は今でも貴方と一緒にトオノで働きたいと思っていますよ」 「!」 「では、失礼します」 村瀬さんは軽く頭を下げて部屋から出て行った。 ……アメとムチが上手すぎる。
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