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「雪臣君、昔から優しいんです」
「そうなんだね」
もう一人のお兄さんて感じなんだろうな。
「兄も父も厳しい人ではありますが、優しい人です」
「……」
「自分がとても恵まれた環境にいたのは分かっていたのに、トオノは俺にとって窮屈で息苦しくて全部嫌になって逃げたんです」
優秀な兄と父がいたらプレッシャーは凄いだろうな。お母さんもトオノで働いてるし。
「でも、逃げるのやめたからここにいるんでしょ?」
「……はい。大事な人が出来たので」
あー、若さが羨ましい。
すごくキラキラしてるな。
「なら顔を上げて、背筋を伸ばす。それだけで世界が変わる事もあるよ」
私も自分に自信がなくて、付き合う前に楓に言われたっけ。
「きっと大丈夫」
「ありがとうございます。里津さんも優しいですね」
「そうかな?私はただ秋桜君の力になりたいって思っただけだよ」
「でも、兄には色々言われたんじゃないですか?」
「言われたけど、突っぱねちゃった」
二人で笑っていると、コンコンとドアがノックされた。
「「!」」
そして。
「秋桜、久しぶりだね」
「……兄さん」
トオノの社長である楓はいつもの三割増し位、氷のようなオーラがある。
「里津」
「ごめん。先に謝っておく」
「謝らなくていいよ。許さないから」
「……」
ニコリと微笑まれたものの、背筋がゾッとした。これは怒っている。分かりづらいけど、かなり。
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