遠野事変

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村瀬さんに案内されたのはズラーッと様々な調理器具が並ぶ部屋。ここってトオノの商品開発室ってやつなんじゃ……。部屋の中をキョロキョロしているとどうぞ、と言われて椅子に座る。村瀬さんは本当にお茶を淹れ始めた。 「紅茶はお好きですか?」 「……好きです」 「ストレート?ミルクティーも出来ますよ」 「えっと、ストレートで」 「かしこまりました」 楓もだけど、村瀬さんもいつも背筋がピンとしている。 「そんなにじっと見られると穴が開いてしまいますよ」 「すみません。職業柄気になるんですよね」 「ああ。佐伯さんの淹れるコーヒー、好きですよ」 「ありがとうございます」 褒められると照れるな。 紅茶と一緒に出されたのはシュークリームが二個。二個? 「このシュークリームはトオノの主力商品の一つなのですが、食べ比べてみて下さい」 「……」 こ、これは……。 変な事言ったら楓と別れろって迫られるやつ? 「私、そこまで違いの分かる女じゃないのですが」 「大丈夫です。あくまでお客様目線の意見が欲しいので」 「!?」 いや、どういうこと? 「わ、私が的を得ない事を言っても楓とは別れませんからね」 「それは残念です」 「え!?」 「とりあえず食べてもらえますか?これは仕事の一環なので」 村瀬さんは真剣だ。 私は頷いて右のシュークリームを一口食べる。
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