遠野事変

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うん。普通に美味しい。 続けて左のシュークリームも一口。 「どうですか?」 「……どちらもすごく美味しいですけど、右の方がシューの部分がしっかりしててクリームの量も多いような」 「なるほど。中のクリームの甘さはどうです?」 「うーん」 よくあるカスタードと生クリームのダブルクリームだけど。 「私は甘くてクリームたっぷりの方が好きなので右が好きですね。でも左は左で生クリームの甘さ控えめで美味しいです」 村瀬さんは私の感想をノートに書き込んでいる。 「字、綺麗ですね」 字が汚い村瀬さん。というのも想像出来ないけど。 「……佐伯さんて本当に緊張感ないですよね」 「いや、これは素直な感想ですから」 「そうですか。褒め言葉はありがたく頂戴しておきます。この二つのシュークリーム、左が現在トオノで販売しているものです」 「右は?」 「右は左の改良版の試作品です。従来品を見直すのも大事な仕事なので。忖度ない意見をありがとうございました。お茶を飲んだら帰って頂いて結構ですよ」 「……」 初期の楓を思い出す口振り。村瀬さんも凄くガードが固そう……やっぱり親戚なんだな。 「私、役に立ちました?」 「それなりに」 「じゃあこれで貸し借りナシですね」 「何を言ってるんです?ナシになる訳ないじゃないですか」 「ここはカッコ良く、ナシですよって言うべきでは?」 「生憎、佐伯さん相手に格好をつける気はありませんので」 「えー、じゃあ何すれば良いんですか」 私に出来る事なんて限られてる。 村瀬さんは少し考えて。 「これからも秋桜の力になってあげて下さい」 「……へ」
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