遠野事変

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「まあ、言わなくても佐伯さんなら大丈夫ですよね」 「や、あ、あの、はい」 さっきはどの面下げて云々言ってたのに。 やっぱり村瀬さんに悪役は似合わない。 「秋桜は私にとっても弟のような存在です。一緒に働けるのを楽しみにしていたのですが、上手くはいかないものですね」 「人生なんて上手くいかない事ばかりですよ。でも諦めなければ大抵の事は何とかなります」 「……そうですね。七年前、死にそうな顔でお弁当食べてた人に言われたらそうなんだなって思います」 「あ。楓から聞いてます?」 今となっては恥ずかしい。 「いいえ。パリから一時帰国していた時に楓と一緒に見かけてましたよ」 「!そ、うなんですか」 は、初耳なんだけど。 「はい。楓はお人好しなので見かける度に今日も生きてるって安心していました」 「……楓」 それは喜んで良いのだろうか。 「楓も秋桜も素直じゃないので、これからも間に入ってあげて下さい」 「それは村瀬さんも出来ますよね?」 「いいえ。私は楓の絶対的な味方なので」 村瀬さんは微笑んで紅茶を一口飲んだ。 この人がいる限りきっと楓は大丈夫なんだろうな、そう思わせる笑みだった。
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