遠野事変

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その後、30分程車で待っていると秋桜君は戻って来た。ペコリと頭を下げて助手席に座る。 「「……」」 しかし、下を俯いたまま微動だにしない。 「秋桜君、大丈夫?」 楓にキツイ事を言われたのだろうか。 「大丈夫です。里津さんが出て行った後に父も来てくれて三人で話しました」 「そう、だったんだ」 あの二人と話すって緊張しかないな。 想像しただけで冷や汗が出る。 「父はやりたい事があるなら好きに生きろと言ってくれました」 「え」 怒ってたんじゃないの? 「大事な人が出来たなら一生をかけてその人を守りなさいと」 か、会長……。 「逃げ出すのはこれきりにしろ、と。俺は未熟な子供でした」 「……」 私は秋桜君の肩をぽんぽん、とさする。 「未熟で何も分かってない子供はもう、卒業します」 「……うん」 「俺は一ヶ月だけ父と兄の下で働きます」 「!」 「里津さんにもご迷惑をおかけしました」 「いやいや、私はただ送っただけで」 秋桜君は首を振る。 「間違いなく、心強い味方です」 未来の弟が泣かせてくる……。 「よし!じゃあこれからパーッと飲みに行こう!」 「え、兄は良いんですか?」 「大丈夫大丈夫!今さら気に障る事一つ増やしても問題ないよ」 早めに切り上げるし大丈夫だろう。 「はは、じゃあお言葉に甘えて」 「行きつけの安くて料理の美味しい居酒屋さんがあるんだよね」 「楽しみです」 秋桜君、ちゃんと話せて本当に良かった。 私の役目も一先ず終わりだな。
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