遠野事変

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夜。 ダイニンテーブルを挟んで不機嫌そうな楓と向き合って座る。 「で。秋桜と今まで一緒に飲んでいたと」 「……はい」 楓には秋桜君と飲みに行く事、帰る時間もきちんと連絡したのだが……怒っている。 まあ今日は私が勝手な事ばかりしたから怒られて当然だ。 「何か言う事は?」 「もう勝手な事はしません……多分」 「多分?」 「なるべく、しません」 「……じゃあ、俺の事抱きしめてくれる?」 「は?」 抱きしめ? 「今日は疲れたから」 「あ、そうですよね」 いや何事。 「えっと、立つ?」 「うん」 楓は少し気だるそうに立ち上がる。 私はおずおずと楓に触れて顔を胸に寄せた。 あまり力が入っていなかった腕が徐々にキツく私を抱きしめていく。 「あの、ちょっと苦しいか、も……!?」 そして唐突に体が浮いた。よ、横抱きにされてる!? 「え、なに!?重くないの!?」 「それなりに重い」 「ちょっと」 楓は寝室まで私を運び、ベッドに押し倒す。 「て、展開についていけない」 「じゃあ、このまま流されたら?」 「怒ってるんじゃないの?」 「怒ってるよ」 手が私の着ているブラウスのボタンを外していく。 「だから、今日は思いっきり抱こうって決めてた」 「!」 「覚悟してね」 パチン、と電気が消えた。
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