雨と傘と再会。

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7年後。 あのチェックの傘は捨てずに今も持っている。 多分これからも捨てる事はないだろう。 それくらい、優しさに救われたから。 「佐伯ー、そっちの片付けお願いして良い?」 「了解」 私の現在はと言うと、26の時に担当した案件のデザイナーである矢川さんに誘われて、彼が手掛けるカフェの雇われ店長をしている。 同期の筒井杏奈も一緒に会社を辞めてカフェで働いており、毎日充実した日々を送っている。 ……今だから思うけど、新入社員時代に会社を辞めなくて良かった。まあ、私の指導係があれから半年もしない内に寿退社して辞めたのが大きいんだけどね。 シンクに残った大量のカップとグラスを一つ一つ丁寧に洗う。うちのコーヒーは矢川さんが豆からこだわって厳選したものを使っているからとても美味しい。 価格もリーズナブルに設定しているし看板商品の1つだ。 「明日はハンバーグランチだから混むよね」 筒井はテキパキとテーブルを拭いて、紙ナプキンの補充をしている。 「ありがたいことだけど、絶対混むね」 定休日の火曜日以外、平日は30食限定のランチ営業をしていて、木曜日のハンバーグは1番人気だ。近くにオフィス街がある為、サラリーマンやOLさんもよく来てくれている。 それでも純粋な儲け、っていうのはあまり多くはない。 何とかやれているのはカフェが入っているビルの持ち主が矢川さんのお父さんで家賃ゼロだからだ。
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