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「おや、楓君。お疲れ様です。仕事は一段落ついたんですか?」
「いや、全然ですよ。やることあり過ぎて体がもう一つ欲しいくらいです」
ドクドク、ドクドク。
落ち着け、心臓。いや、そんなの無理だ。
だって、だって彼は……。
【大丈夫ですか?】
彼は7年前、私に傘を差し出してくれた男性だ。
記憶の中からそのまま飛び出して来たみたいに全然変わってない。とびきり、綺麗なまま。
どうしよう。
こんなことある?引っ越すって言っていたのにどうしているの?それより声、かけても良いかな?
いやなんて?そもそもあんな昔の事覚えてるワケない。
「お待たせ致しました。ミモザです」
「!あ、ありがとうございます」
落ち着け。とりあえずミモザを一口飲む。
うん、やっぱり美味しい。
「……」
ここで、声をかけなかったら絶対後悔する。
私はすう、と深呼吸をして立ち上がった。
「あの、隣、良いですか」
【彼】は気だるげにこちらを向いた。
その視線に少しピリついたものを感じたが、心を奮い立たせて視線を返す。美人に睨まれると本当に怖い……。
「どうぞ?」
「!」
良い、んだ。
お礼を伝えて隣に座る。
馬鹿みたいに緊張してるけど、7年前のことをどう切り出せば良いのだろうか。
「俺の傘、役に立ちましたか?」
ふ、と笑みを浮かべる綺麗な口元に思わず見とれてしまった。
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