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とはいえ、俊宜も数多くの顧客を抱え、おいそれと店を離れるわけにはいかない。そうなると、代わりに手足となるのが弟子の順平だった。
順平は高等小学校を卒業した十四歳の時、知人の勧めで理容店菊池に弟子入りした。最初は掃除に始まり、賄い作り、奉公に来てから二年でようやく店に出ることを許された。
大人の仲間入りをするには早い十六歳だが、世の中を公平な目で見る理性的な面を持っている。性格は素直で裏表がなく、体が丈夫で俊敏。勉強は苦手だが機転が利く少年だ。
「それで、今回の依頼は何ですか? 窃盗? それとも詐欺事件? 殺人事件ではないでしょうね?」
「それが何とも不思議な話なのだよ」
「幽霊でも出たとか?」
「その手の話なら、私も引き受けてはいないよ」
「それならば、どのような話なのでしょうか?」
今回は夫が別人になってしまったと、悩む婦人のために真相を探る約束をしてしまったのだ。
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