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メール
職が完全になくなった僕には、することがなかった。
ただ、ぼろアパートでごろごろし、昼も夜も、寝て過ごした。無精ひげを生やし、ろくに飯も食わなければ、風呂にも入らなかった。なにもかも失って、僕は途方に暮れていた。
こんな状態が続けば、金が底を尽きるのは、目に見えていた。
しかし、働く気になれない……。
僕は、完全に鬱状態だった。
東京を捨てて、田舎に帰るか……?
少し、のんびりして、なにもかも、忘れたい。
綾乃のことも……本気で、恋をしたことも……。
そんな状態だったから、パソコンのメールを開けたのは、ほとんど奇跡に近かったかもしれない……。懐かしい、故郷の友達にメールしたくてパソコンを開けた。
新着メール、一通。
タイトルは、「forget-me-not」・・・。
それは知らないアドレスだった。
けれど、僕は確信した。
綾乃だ!
胸が騒いだ。いそいでメールを開けた。
「祐介、お久しぶり!
お元気?
心配させてごめんなさい。私は元気よ。学校は楽しいかしら。
ゴールデン・ウィークになったら、タンブリッジ・ウェルズに来れない?
ジョンソンズ・タウンというバーに、十九時くらいに来て。待ってるから。
楽しみにしています 綾乃」
タンブリッジ・ウェルズ?!
しかも、ジョンソンズ・タウン?!
僕の行きつけだったカフェ・バーだ。
ゴールデン・ウィークなんて、待っちゃいられなかった!
僕は、急いでロンドン行きのチケットを取った。
最短で、四月十一日の土曜日発。
昼過ぎに、ヒースローに着く便だ。
僕は、久しぶりにひげをそり、風呂に入った。飯も食いたかったけど、固形物は、もはや胃が受け付けなかった。仕方なく、栄養ゼリーを流し込む。
久しぶりに、スーツに腕を通して、必要最低限のものだけまとめると、アパートを後にした。
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