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高倉との別れ
飛行機の予約時間まで、まだ、間がある。
僕は、高倉のアパートへ向かった。
高倉とは、そこで、何回か、飲み明かしたことがあった。
「高倉! いるか?!」
僕は、ドンドンとドアを叩いた。
「なんだよ……森永! お前、痩せたな……」
「僕はこれから、綾乃に会いに行く。まだ、終わっちゃいなかったんだよ!」
「森永……お前のことは、心配していた。でも、スーツケースなんて持って、一体どこに行くんだ?」
「イギリスだよ! タンブリッジ・ウェルズだ」
高倉は驚いていた。
「そこに、綾乃がいるのか?」
「いる! メールが来たんだ。そこに来い、と書いてあった」
「……その話、本当か……?タンブリッジ・ウェルズって、前にお前が住んでたとこだろ……?」
高倉が、僕の頭を疑ってる……。
僕の心が見せた、妄想なのではないかと思っている。
仕方のないことだった。実際、僕は、半分おかしくなりかけていた。顔も身体も、骨と皮だけだ。ひとめ見ただけで、おかしいとわかる。
「高倉、いままで、本当に世話になった。僕は、綾乃とうまくやる。お前も、環とうまく行くことを祈ってる……」
高倉は、笑った。
「馬鹿だな……。お前はほんとに、馬鹿な男だよ、森永。ひとの心配はいいから、自分のことを心配しろ。おれは大丈夫だよ。おれは、世界一、いい男だ」
「そうだ……。そうだったな」
「最後に一言だけ言っておく。森永……お前も、世界一、いい男だよ。こんなお人よしは、見たことがない。少しは、自信持て! 人間、なにもかも、自信ひとつだよ」
「ありがとう。胸に刻むよ」
「なんせ、天下の綾乃さまがほれた男だぞ?お前は、相当いけてるよ」
僕は、涙が出そうだった。
「……ありがとう……」
つぶやくと、高倉の目を見ないで、アパートを出た。
大丈夫。なにがあっても、僕は生きてゆける……。
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