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ジョンソンズ・タウン
十八時半になると、もう我慢できなかった。
ジョンソンズ・タウンに向かう。
中に入ると、綾乃の姿を席に探した。
そのとき……!
「祐介!」
不意にとびこんできた、日本語のアクセントの、自分の名に驚いた。それは、マイクを通した、はっきりした明るい声だったからだ。
綾乃だった!
綾乃が、舞台の上のピアノの前に、座っていた。変わってなかった! 綾乃は、日本にいたときよりも、むしろ元気そうに見えた。その姿に、僕は心から喜んだ。
「ねえ、みんな? 今日は、私の愛するひとが来ているの。その人のために、日本語の歌を歌っていい?」
綾乃が客席に、英語で語り掛ける。
「ああ! もちろんだ!」
拍手が起きた。
綾乃が、ステージから降りてきて、暗闇にいた僕を、まぶしいステージへと引っ張り出した。そしてピアノの前に座ると、一息ついて鍵盤に指を置いた。
そして、語りかけるようにゆっくりと歌いだした歌は、中島みゆきの「糸」だった。
「失恋の女王」と呼ばれている中島みゆきが、友人にせがまれて、その結婚式のために作った歌。だからそれは、たまらなく切なくて幸せな、ウエディングソングだった。
僕は、こみ上げる涙を抑えることができなかった。
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