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会いたかった
気がつくと、綾乃は演奏を終えて、僕の前に立っていた。
「祐介……逢いたかった……」
「僕もだよ、綾乃」
「私のこと、もう忘れてるかも、って怖かった」
「忘れられるはずないよ。君のことで頭がいっぱいだった……」
「馬鹿やろう! 英語でしゃべれよ!」
誰かが叫んだ。拍手と笑いが興った。
「私たち、結婚するよ!」
綾乃が、英語で叫んだ。
周りがどよめいたが、僕も正直、びっくりしていた。
「なにそれ? プロポーズのつもり?」
「そうよ? いけない?」
僕は、笑った。
綾乃らしい。どこまでも、綾乃らしかった。
驚くほどの拍手と歓声が飛んだ。スポットライトが、肌に熱かった。
「なにか言えよ! この幸せ者!」
また、英語の罵声。笑いが起こる。
僕は、手に持った忘れな草の花束ごと、綾乃をぎゅっと抱きしめて、ゆっくりと確かめるようにキスをした。
唇に、耳に、首に……。
「全く、見ていられないよ!!」
あちこちで口笛をヒューヒュー鳴らして、冷やかしや祝福の歓声が上がった。
幸せすぎて、涙が出た。
もう耳に何も聞こえなかった。
ただ、温かい綾乃の身体と、優しい綾乃の香水の香りと、眩しく熱い、スポットライトだけを感じていた。僕は、瞳を閉じて、めいっぱい息を吸った。
そうだ。この街で、綾乃と、一から始めよう!
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