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「だいぶ良くなったみたいね。」
おばさんがトリカゴをしげしげと見て言った。
いつものカフェ、僕の前の席にはおばさん、おばさんの隣に彼女。
(おそらく、今日も微笑んでるんだろうな……)
「やっぱり、このエサが合うみたい。しばらく続ければ元気になるから。」
と言いながら袋に入ったゼリー状のエサを取り出す。
「じゃ、1ヶ月のエサ代とケア代、合わせて……」
「うそですね。」
僕はおばさんの言葉をさえぎりきっぱり言った。
「うそ? 何が?」
「この中に鳥はいません。」
「は? 前にも言ったでしょ、この鳥は保護色で……」
「先日、このトリカゴをお風呂につけました。」
「は?」
おばさんの顔が見る見る紅潮してきた。
「あなた! 一体何を! なんてことを!」
「そしたら、鳥が水の中で暴れ出して、お風呂から飛び出して、僕は驚いてお風呂で足を滑らせ転んで、後頭部を強打しました。」
「はっ! バチが当たったのよ。そんなことするから!」
「でも、頭を打ったおかげで目が覚めました。このカゴの中に鳥はいません。だって逃げ出したままだもん。」
「あぁ、そんなこと。」
おばさんが深くため息をついた。
「いい、よく聞いて、逃げ出しても鳥はカゴの中に戻ってくるのよ。この鳥は神の鳥よ!必ず、必ずカゴの中に戻ってくるのよ。」
「……」
「実際、水の中で泳ぐ鳥を見たんでしょ。初めて会った時も、カゴの中に手を入れた時、感じたでしょ! 鳥がいることを。それが紛れもない証拠じゃない!」
「……洗脳術ですよね。」
「は?」
「おそらく、彼女の目でしょう。彼女の目を見たら鳥がいるような錯覚を感じるんでしよう?」
「あ……いや、何を言ってんの?そんなこと……」
おばさんがうろたえる。
「なんなら、またカゴの中に手を入れてみましょうか? 今日は一度も僕は彼女を見ていません。きっと、何も感じない!」
「え……いや、それは……」
「あーあ、ばれちやったぁ。」
今まで一度もしゃべらなかった彼女が両手を頭の後ろに組んでのげぞり言った。
「おばさん、帰ろ、この人、もうだめだよ。」
「そうねー、その通りねー。」
と言うと、2人が席を立つ。
「あ、そのトリカゴはあげるわ。九官鳥でも飼ったら。」
おばさんが捨てゼリフを残して、2人はカフェを出て行った。
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