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「ほらぁ、最近ぶっそうでしょう。マッチングアプリで出会った男が変な人で、事件に巻き込まれたり……」
マッチングアプリで知り合った彼女と初めて会うカフェ。
なぜか、彼女はおばさんを連れてきた。
「あ! あなたのことを言ってるじゃないのよぅ。だって、あなた、真面目そうだもの。」
(いや……それはいいが、なぜ僕の前に座る?)
僕の前におばさんが座り、その横、僕の斜め前の席に彼女が座っている。
僕が時折、ちらと彼女を見ると、彼女もこっちを見て目が合う、にこりと笑う。
(か……可愛い)
「私? 私は……まぁ、言ってみればこの子の親代わりかな?」
特に聞いていないが、おばさんは自己紹介を始める。
「この子、田舎から都会に出てきたばっかりで、一人暮らしだし。ま、こっちでは私が親代わりってわけ。」
(そんなことはどうでもいい……)
「それで、今回、マッチングアプリで知り合った人と会うって言うし、もう、おばさん気が気じゃなくてついてきたのよぅ。」
彼女はおばさんが喋っているのをはにかんだ笑みを浮かべながら聞いている。時折、こっちをじっと見る、僕と目が合うと、にこりと笑う。
(やっぱ、可愛い……)
マッチングアプリで知り合って初めて会うそこにおばさんを連れてくる。これがどういう意味か、こんなことは僕にもわかる。
(つまり、騙された……)
おおかた、壺のような怪しい何かを売りつけるのが目的か……でも、彼女はすごく可愛いし……
「ところで、あなた。会った時から気になってたんだけど……」
おばさんが声のトーンを変えた。
(いよいよ来たか……)
「ちよっと、顔色、悪くない? みんなに言われない?」
(うわー、マジで来たー)
「いや! そんなことはないです。言われないです。」
と言って、ちらと彼女を見る。彼女も心配そうな表情でこっちを見ている。
「あなたの周りの人は、あなたの事を気にしてないのね……寂しい人。」
「いや、そんなことは……」
「疲れてるんじゃない?」
「いや、まぁ、多少は……」
(疲れの原因はあなただけど……)
「そう! やっぱ疲れてるのね! 実は私、こういうものを持ってるの!」
そのことば待ってましたとおばさんが足元に置いていたカバンから、何かを取り出しドンとテーブルに置いた。
それは小さなトリカゴだった。
(うわー本当に出たー。壺じゃなかったけど、トリカゴ? 何? しかも、何も入ってないし!)
「この鳥を飼ったら疲れが消えてすっきりするのよ! しかも、幸運を運んでくる。」
「……いや、あのー、鳥、見えないんですけど……」
「保護色だからね! 見えないの、 飼ってれば見えるようになるのよ、ほら、ここに手を突っ込んで見て!」
と言うと、おばさんがカゴの小さな扉を開けて、僕の手を強引に突っ込んだ。
「ん?」
確かになにかいる、羽のような感触が手に伝わり、羽ばたいている風を感じる。
「ほ、本当だ……」
「でしょ、わかるでしょ! 飼えばきっと幸せがやって来るから! しっかり飼い方も教えるから、飼ってみて!」
(なんとなく怪しい……でも、確かに鳥はいる、見えないが……)
ちらと彼女の方を見ると、真剣な眼差しでこっちを見ている、目が合うと決断してと言わんばかりに強く頷いた。
(この鳥を飼えば、また彼女に会えるかな……)
「わかりました。飼ってみます!」
彼女がにっこり笑い、拍手するジェスチャーをした。
「そう! 飼ってくれるのね、そう、それがいいわ、絶対!」
と言うと、おばさんが足元のカバンの中から紙切れを出し、ドンとテーブルに置いた。
「じゃ、鳥とエサ、セットで10万円! 支払いは今じゃなくていいからね。」
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