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「知らない土地に嫁に来て、周りの人たちにかわいがられることもあるけど気を遣ったり辛い思いをさせられることだってある。だからといって不貞腐れてちゃあいけない。いつでも笑顔でいられる様に、笑顔が無理でもしゃんとした顔をしていれば、物事うまく回っていくから、だから時折鏡で自分の顔をみて、気持ちを落ち着かせなさいっていう想いをこめてお義母さんがくれた鏡なんだよ」
おばあちゃんの言葉を聞いて、そこにいたみんながちゃぶ台の上の真実鏡に視線を注いだ。
私にとっての曾おばあちゃんがおばあちゃんにプレゼントした手鏡。
そこには思いやりに加えて教えも込められていたわけだ。
「だからなのね、お母さん、怖い顔してるって記憶があんまりないもの」
鏡を手に取って、その鏡の向こうに過去を見ているような君子伯母さんは、ひとり言のように呟いた。その隣から今度は恵子叔母さんが鏡に手を伸ばし、自分の顔を映してみる。
「あれ、私が小学校卒業するころだったかなぁ、蔵の前でお母さんがおばあちゃんに怒られてるとこ見ちゃったの。何を言われてたのかはわからなかったけど、でもお母さんが謝ってるのは判った。だけどその後お母さんは何事もなかったみたいにおばあちゃんとおしゃべりしててさ・・それこそが真実鏡の教えだったってわけね」
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