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やらずの雨が止んだ。彼はレンタル眼鏡を装着して外を眺めている。雨上がりの空には虹。
ふと気が付くと展示会の受付ロボットも虹を眺めている。
ロボットは一年前に展示会場から彼に付き添ってきてしまったところを、駆け付けた開発部のスタッフに連れ戻されて、初期化されてしまった。眼のレンズはそのままだったので彼との思い出は引き継がれた。狂喜乱舞したい気持ちを我慢して平静を装った。
彼と再会するためには、初期化されて記憶を失っているようにふるまって開発部を騙そうとロボットは決めた。彼と再会し、開発部の許可を得て彼の家に居られる幸せを謳歌している。
彼のレンタル眼鏡とロボットの眼のレンズが反応して会話する。眼と眼のささやきである。
「きょうはレンタル眼鏡のモニターとして、週一回の報告に行くことになっている」
「一緒に行きたいです」
「レンタル会社に相談したのだが、おたくの開発部に知られたくないとのことで断られてしまった」
「おとなしく留守番していますから、このまま置いてもらいたいです」
「開発部に連絡しなければならないね」
「開発部は私から送られる貴重なデータを歓迎していますから連絡しなくて構いません」
受付ロボットを充電装置に接続して、彼はレンタル会社に出かける。
ロボットとの眼と眼のささやきは、レンタル会社にビッグデータとして保存される。貴重なデータに対してレンタル会社から謝意が述べられた。
帰宅すると、ロボットを充電装置から外し、眼と眼のささやき。
レンタル眼鏡は普段の眼鏡と似ていて、開発部が受け取るロボットからの画像データでは区別がつかない。
眼と眼のささやきも、開発部では無言で向き合っているようにしか見えない。
開発部が騙されていたと気付くのは、ずっと後のことである。
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