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八
国民自由党のハヤシ派の一行が県職員と共に三陸に訪れていた。宮古から車で田老町周辺を視察するのが目的だった。海岸線の県道から海に突き出た半島と小さな湾になった岩場が見えてくる。松の盆栽を乗せたような小高い岩場は急に切り立った崖で、その半島と半島の間に小さな漁村や港がある。岩場をくぐるトンネルはあっという間に抜けるが、同じような景色の連続に思わず欠伸をする者もいた。
「これがリアス式海岸ですか、実に単調でつまらないですな」
県職員が額の汗を拭う。
「申し訳ございません」
「世界的にも珍しい地形だそうだが、こんな田舎の自然を残しておくより開発を進めたほうが自治体にも金が落ちるし、施設ができればそこで雇用も生まれる。いい事尽くめじゃないですか」
「はい、先生のおっしゃる通りこの辺は過疎化が進んでおりまして、漁業の担い手も不足しているのが現状です。原発を誘致できれば何よりでございます」
ハヤシマサオが白い髭を触りながら頷いた。
「タザキコウゾウ議員はこの視察のことを知っているのですかな?」
「いいえ、ご存じないと思います」
「ここだけの話、あの男には少々手を焼いている。青森の東通にあり、宮城の女川にあって、どうしてこの岩手に原発が無いのか、それもこれもあの男とその反対派が抵抗を続けるからであって、それがなければとっくの昔に原子力発電所は出来上がっていた。あいつらはバカだ。国が原発を受け入れた自治体に一体どれ程の補助金を出しているか皆さんもご存知でしょう?」
一同が頷いた。県職員の一人が何気なく口にする。
「実際のところ、原子力が無ければ国の電力は足りないのでしょうか?」
するとハヤシの取り巻きの議員が眉間に皺を寄せた。
「バカを言っちゃいけないよ君、もう少し勉強し給え。必要に決まっているからこうしてわざわざ東京から我々が視察に来ているんじゃないか。誘致しようとする側の君たちがそんなんじゃ困るよ」
「はい、申し訳ございません」
「原発はCO2も出さないし、石油を海外から買うよりずっと安く核燃料が手に入る時代なんですよ。資源の乏しい日本のベース電力にするにはもってこいの電力なんだ。タザキ議員たち反対派が言う事故等のリスクだって、そんな天文学的に低い災害リスクを考えていたんじゃ、それこそ何もできやしない。安全は保証されている。もし万が一何かあったところで、その責任を電力会社だけにおっ被せるようなマネはしない。その時は国が責任を負う。つまり税金を投入するということだよ君」
国道沿いの寂れた飲食店が目に入る。
「ところで、せっかく三陸まで来たんだ。どこかで美味い海の幸でもいただきたいものだな。こう海と山ばかりじゃ、退屈で敵わんよ」
「はい、それはもうお任せください」
車は予定地の視察も程々に、繁華街の高級旅館へと消えて行った。
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