家族への紹介

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 「いや、見合いはない。大学の時に付き合っていた彼女の実家が取引先になってしまった。別れているのに、結婚を勧められたんだ。俺はその気がなくて、向こうが力業でこようとしたから、逃げてきた。もちろん、今後も雫一筋だから安心してくれ」  ……安心?どういうことよ。  「父には、日本に忘れられない子がいると言ってある。父は信じていなかったが、母は俺が雫を大切にしていたのを見ていたからわかっている。いざとなれば母を味方につければ何とかなるだろう」  なんとかって何?そんな簡単なことならいいけど。  「私なんて、何の取り柄もないですけど。普通の家庭の娘だし」  「何言ってるんだよ。こんなに可愛くてモテモテの雫を俺は戦って勝ち取ったのに、新田に渡すもんか」  どうも、違うような。おもちゃを取られたくない子供でしょそれ。  家の前にタクシーが着くと、懐かしいと言って、下りてくる。そこで抱きしめられた。じゃあな。といってタクシーに乗って去って行った。  家に入ると、すでに電気は消えている。  十時だった。  足音を立てないようにして、自室へ上がり部屋に入る。
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