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「これは命令だ。CROWNの名誉を守るために、お前には一誠の代わりになってもらう」
「僕はΩなので、αしかいない全寮制の男子高校は難しいです」
久しぶりに声をかけてきたと思ったら、こんなクソみたいな話だとは思わなかった。
ここは社長室で、親父はレザーチェアーに座り、腕を組んでいる。
クソ親父は、嫌そうな顔をしながら秘書に目配せをした。
俺のすぐ側にいる秘書が、アタッシュケースを大型デスクに起き、開ける。
なんだ?これ……。
1歩踏み出して中を見れば、錠剤、注射器、液体型の薬が……量多っ。
このピンクの薬剤って……嫌な予感がする。
「これはΩ専用の抑制剤だ。市販の物から特殊製造した物まで全部揃っている。少なくとも半年は保つだろう」
「何いってんですか?」
「一誠を捜索している。あの馬鹿が見つかるまで、やり過ごせ」
気が狂ってる……。
俺がαしかいない全寮制の秀英α高等学校に通うってことか?一誠として?
Ωは発情期でない時もαのフェロモンに当てられてんだぞ。
俺が秀英α高校に入って、発情期でも起きようものなら……。死ぬ。
一誠が好き勝手して、妊娠させて。俺がその尻ぬぐい?
「僕はそんな事できません」
秀英α高校は次代を担うαを育成するため、設立された由緒正しき高校だ。
教員や事務員はβもいるらしいけど、学生は全員α。資産家、富裕層、社長の息子が多く通学していて、坊ちゃんが多いっぽい。
Ωの俺がそんなとこ行ったらダイナマイトと同じだろ。
仮に俺が一誠じゃない事がバレたら、親父は刑務所行きで俺も犯罪者だ。
「父さんは……僕が一誠の代わりになれると思っているのですか?」
「馬鹿か?」
親父の深い溜息が聞こえる。耳を塞ぎたい。
「一誠を連れ戻す方法を模索している。その間、お前は代替え品として役目を果たすだけだ」
俺は親父と目を合わせないように、抑制剤を見続ける。
殴りたい。叫びたい。泣きたい。けど、親父は絶対だ。
「仮に一誠の一件が世間に広まれば、終わるのはお前だ」
は?
思わず顔を上げてしまった。虫けらを見るような見下した目。
「お前のいる高校にはマスコミが張り付き、退学になるかもしれないな。校内では虐げられ、将来の就職先も、夢もなくなる」
頭が真っ白になりそうだ。
親父の……『花園 優成』にとって、俺は一誠の影武者ぐらいにしか映っていないんだな。
ここまでくると死にたくなる。
俺の事を救済するなんて、頭の中に塵1つ分もないらしい。
いっその事、共倒れでも、全部世間に暴いてやりたい。
でも生まれたなら、夢くらいは見させろよ。
「わかりました」
親父が一誠を捕まえて、俺が普通の生活に戻る。
そうしたら、俺は今まで通り過ごせるだろうか。
簡単に一誠が戻ってくるとは思えないけど、それなりの案があるんだよな?
どっちにしろ、これ以上文句言っても無意味。親父の中では決定事項だ。
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